スマホdeほけん編集部監修者
ファイナンシャルプランナー
保有資格
AFP・2級FP技能士
専門分野・得意分野
生命保険・社会保障・金融全般に精通。保険業界での実務経験をもとに、ユーザー目線で正確かつ中立的な情報発信を行っています。
「夫婦で年金が年300万円あれば安心」と聞く一方で、最近の物価高や医療費の増加を考えると「本当に足りるのかな…」と不安になりますよね。
しかも年金は額面どおりすべてが生活費になるわけではなく、税金や社会保険料が差し引かれた「手取り」で考える必要があります。
さらに老後は、医療・介護・インフレ・片働きへの変化など、家計を揺さぶる要因がいくつも同時に起こり得ます。
この記事では、「夫婦で年金300万円」という水準がどんな位置づけなのかを整理し、手取りの目安、平均的な生活費とのギャップ、そして家計と老後資金を安定させる具体策を専門家目線で解説します。
夫婦で年金300万円は多い?少ない?標準モデルと比較
夫婦の年金300万円は、月額にするとおよそ25万円です。
2025年度の「標準的な夫婦モデル」(夫・平均的な賃金で40年就業+妻・基礎年金満額)の年金額は月232,784円(年約279万円)とされています。これと比べると、300万円は「標準よりやや多い」水準です。
ただし、この標準モデルはあくまで一例にすぎません。実際の年金額は、夫婦それぞれの加入年数や報酬額、働き方によって大きく変わるため、「額面300万円だから安心」とは言い切れません。
年金300万円の手取りはいくら?税金・保険料の控除を理解する
年金収入300万円はあくまで「額面」であり、実際に生活費として使えるのは税金や保険料を差し引いた「手取り」です。
主に差し引かれるのは、健康保険料・介護保険料・所得税・住民税などです。
税金については「公的年金等控除」が適用されるため、すべてが課税対象になるわけではありません。特に65歳以上は控除額が厚くなり、税負担は比較的軽くなります。
同じ年金300万円でも、年齢や健康保険の区分、自治体ごとの保険料水準によって、手取り額は変わってきます。
ここでは、手取りを左右する主なポイントを整理します。
自分の年齢や家計状況に当てはめながら読んでみてください。
1. 公的年金等控除の年齢差
65歳以上の場合、公的年金等控除は年金330万円未満なら一律110万円となり、その分だけ課税所得が小さくなります。
同じ300万円でも、65歳未満のときより65歳以上の方が税負担は軽くなりやすく、手取りも増える傾向があります。
2. 健康保険の区分(国保/後期高齢者)
75歳以上になると後期高齢者医療制度に移行し、保険料の計算方法や納付者が変わります。
夫婦の年齢や所得のバランスによって負担のかかり方が変わるため、「世帯でいくら負担しているか」を確認することが大切です。
3. 介護保険料の所得段階
65歳以上は介護保険の第1号被保険者となり、所得段階に応じて保険料が決まります。
医療・介護の自己負担が増えやすい年代ほど、保険料の負担感も大きくなります。
4. 住民税非課税の判定
世帯の所得が一定以下の場合、住民税非課税となり、医療・介護・公共料金などで軽減や助成が広がるケースがあります。
逆に、非課税ラインを少し超えるだけで、保険料や自己負担が一気に増えることもあるため、注意が必要です。
5. 自治体ごとの保険料率
国民健康保険・後期高齢者医療・介護保険料は、自治体ごとに保険料率や軽減ルールが異なります。
同じ年金300万円でも、住んでいる地域によって手取りが変わることは押さえておきましょう。
注意ポイント
夫婦で年金300万円の場合、手取りの目安は「年272〜278万円前後」、月額にするとおおむね22〜23万円程度で見ておくと、家計の検討がしやすくなります。
年金300万円で老後の生活費は足りる?平均支出と比較
「足りるかどうか」は、年金収入と老後の生活費の差額で判断します。
2024年の家計調査では、65歳以上の夫婦無職世帯の平均消費支出は月約25.7万円となっています。
一方、年金300万円の手取り月額は約22〜23万円と見込まれるため、「平均的な支出水準」を前提にすると、毎月2〜3万円ほどの赤字が出やすい構造です。
さらに、旅行や趣味、孫への支援などを含めた「ゆとりある老後」の目安は月35〜38万円程度と言われることも多く、そこを目指すなら、年金300万円だけでは明らかに不足します。
夫婦で年金300万円でも起こりうる5つのリスク
年金300万円は標準モデルよりやや多い水準ですが、「老後のリスクをすべて吸収できるほど余裕がある」とまでは言えません。
特に、老後後半にかけて発生しやすい支出は、家計の前提を大きく揺るがします。
あらかじめ主なリスクを把握しておくことで、準備すべき老後資金のイメージが具体的になります。
代表的なリスクは次の5つです。
まずは全体像を確認しておきましょう。
ポイントは、これらが「ひとつずつ」ではなく、複数同時に重なって起こり得るという点です。
年金300万円でも家計を揺らす老後リスク
1. 医療費・介護費の急増リスク
高額療養費制度により自己負担には上限がありますが、差額ベッド代や先進医療、リハビリ、自費のサービスなどは全額自己負担です。
夫婦ともに要介護状態になった場合、介護サービス費用はほぼ2倍に膨らみ、年金だけでは収まりきらないケースが珍しくありません。
2. インフレで実質価値が下がるリスク
年金は物価や賃金の動きを踏まえて毎年見直されますが、「マクロ経済スライド」により増額幅が抑えられる仕組みがあります。
物価上昇が続くと、名目の300万円は変わらなくても、「300万円で買えるもの」は少しずつ目減りしていく可能性があります。
3. 配偶者が先に亡くなる年金減額リスク
厚生年金が中心の世帯では、受給者が亡くなると、その人の年金は打ち切られ、遺族厚生年金に切り替わります。
その結果、世帯としての年金収入は大きく減りますが、一人暮らしになっても生活費がきれいに半分になるわけではありません。
特に住居費・光熱費・通信費などの固定費はあまり減らないため、収入減と支出のギャップが問題になりやすい点に注意が必要です。
4. 住居費が長期化するリスク
持ち家の場合でも、固定資産税・修繕費・火災保険などのコストは生涯にわたってかかり続けます。
賃貸の場合は家賃が一生続き、更新料や引っ越し費用が発生することもあります。
住居費の負担が大きい世帯ほど、年金300万円だけの暮らしは厳しくなりやすいと言えます。
5. 子や孫への支援が増えるリスク
子どもの教育費や住宅購入、孫の進学祝い・結婚祝いなど、老後にまとまった支援をする家庭も少なくありません。
支援そのものは喜ばしいことですが、計画外の出費が続くと、老後資金の取り崩しペースが早まり、老後後半の資金不足を招くリスクになります。
注意ポイント
老後の家計リスクは、「医療・介護」「物価」「家族構成」の3方向から同時に効いてきます。1年単位ではなく、10〜20年のスパンでシミュレーションする視点が大切です。
夫婦で年金300万円の家計を守る3つの対策
「年金だけでは赤字が出るかもしれない」と分かっても、対策を早めにとれば老後の安定は十分に目指せます。
重要なのは、まず不足額を見える化し、それを「支出の削減」「予備資金・保険」「資産運用」の3方向から分散して埋めていくことです。
ここでは、現実的に取り組みやすい三つの対策を紹介します。
家計の状況に合わせて、優先順位をつけながら進めていきましょう。
① 固定費を見直し、毎月の赤字を最小化する
老後は収入を増やすより、支出をコントロールする方が現実的で即効性があります。
通信費・保険料・自動車の維持費・サブスクなどの固定費は、一度見直すと効果が長く続く分野です。
例えば月2万円の固定費を削減できれば、20年間で約480万円の改善効果になります。
まずは「年金の手取りの範囲でほぼ収まる生活費」を目標に、支出の上限を決めることから始めてみましょう。
② 医療・介護の“予備資金+保険”で家計の破綻を防ぐ
日々の生活費とは別枠で、医療・介護用の予備資金を用意しておくと、家計の耐久力が大きく高まります。
目安として、夫婦で生活費の1年分(300万〜400万円程度)を「もしもの資金」として確保できると安心感が違ってきます。
あわせて、民間の医療保険や介護保険で、高額になりやすい差額ベッド代や在宅介護費などの不足分をカバーする設計も有効です。
ただし、すでに加入している保険との重複や、保険料負担が重すぎないかを確認し、必要な保障だけを残す見直しも重要になります。
③ インフレに負けない資産運用で“資産寿命”を伸ばす
預貯金だけに置いておくと、インフレによってお金の実質的な価値が目減りしていく可能性があります。
そこで、新NISAなどの非課税制度を活用し、投資信託などで分散投資を行うことで、長期的に資産寿命を延ばす考え方が重要です。
また、変額保険のように「保障+資産形成」を一体で行える商品を、老後資金の補完として検討する方法もあります。
基本は「生活費に必要な資金は安全性重視」「余裕資金の一部だけを無理のない範囲で運用に回す」というメリハリをつけた設計です。
FPに聞く!年金300万円夫婦のリアルな疑問
年金の「足りる・足りない」は、金額だけでなく、税金・保険料・生活水準・家族構成によっても変わります。
ここでは、夫婦で年金300万円を想定したときによく出る疑問に、FPが答えます。
34歳・女性
年金300万円の夫婦は標準より多いのに、なぜ赤字になりやすいのですか?
スマホdeほけん
標準モデルより多いとはいえ、300万円はあくまで額面で、手取りにすると月22〜23万円程度だからです。
一方で、平均的な消費支出は月25万円台と言われており、この差額がそのまま赤字として表れやすいという構造があります。
34歳・女性
手取りを増やす方法はありますか?
スマホdeほけん
住民税非課税の判定や、医療・介護保険料の軽減措置の対象になると、実質的な手取りが増えることがあります。
控除の活用や所得の出し方(例えばパート収入など)を調整し、負担を抑える工夫がポイントですね。
34歳・女性
医療費の備えは貯金だけで十分でしょうか?
スマホdeほけん
高額療養費制度で一定の上限はありますが、差額ベッド代や在宅介護、自由診療などは対象外です。
貯蓄だけで備えるのが不安な場合は、予備資金と必要最小限の保険を組み合わせるのが現実的です。
34歳・女性
インフレ対策は高齢になってからでも必要ですか?
スマホdeほけん
はい、必要です。年金の改定が物価上昇に追いつかないケースもあり、長い老後期間では実質価値が目減りする可能性があります。
リスクを抑えた分散投資で、資産寿命を少しでも延ばす発想が大切ですね。
34歳・女性
夫婦のどちらかが亡くなった後の生活が心配です。
スマホdeほけん
遺族厚生年金は報酬比例部分の4分の3が基準ですが、基礎年金は原則として一方分がなくなります。
収入は大きく減る一方で、住居費などはあまり下がらないので、預貯金や保険で「一人になった後の数年」を支えられるようにしておくと安心です。
夫婦の年金300万円に関するよくある質問
最後に、年金300万円前後の夫婦からよく寄せられる質問をQ&Aで整理します。
老後資金の不安を減らし、次の一歩を考える参考にしてください。
Q1. 夫婦年金300万円の手取りは月いくらですか?
A. 目安として、年272〜278万円前後、月換算でおおむね22〜23万円程度と考えられます。
健康保険や介護保険の区分、自治体の保険料率によって前後するため、年金振込額と控除明細で実額を確認しておくと安心です。
Q2. 持ち家なら年金300万円で足りますか?
A. 家賃がかからない分、有利なのは確かです。ただし、修繕費・固定資産税・火災保険などのコストは続きます。
医療・介護の予備資金がどれだけ用意できるかで、「足りる・足りない」の感覚は大きく変わります。
Q3. 住民税非課税だとどう変わりますか?
A. 非課税になると、医療・介護保険料の軽減や各種助成が広がることがあり、手取りベースの負担が軽くなる場合があります。
逆に非課税ラインを少し超えるだけで、保険料や自己負担が増えることもあるため、ライン付近の方は注意が必要です。
Q4. 老後に必要な貯蓄額の目安は?
A. 例えば毎月の不足額が3万円であれば、20年で約720万円、5万円なら約1,200万円が目安となります。
実際には住居費・医療・介護の状況などで不足幅が変わるため、世帯ごとの試算が欠かせません。
Q5. 年金以外の収入源は何を用意すべきですか?
A. 新NISAでの積立運用、個人年金保険、変額保険、退職金の計画的な取り崩しなどが代表的な選択肢です。
生活費の安全資金と運用資金を分け、「複数の柱を少しずつ持つ」イメージで準備すると、1つの収入源に依存せずに済みます。
まとめ:年金300万円は“やや多い”が、老後の安心には追加の備えが必要
夫婦で年金300万円という額は、統計上の標準モデルよりやや多い水準です。
しかし、税金や社会保険料が差し引かれた手取りは月22〜23万円程度となり、平均的な生活費と比べると赤字になりやすいのが現実です。そこに医療・介護費の急増、インフレ、配偶者死亡後の年金減少などのリスクが重なると、不足幅はさらに広がります。
だからこそ、固定費の見直しで赤字を圧縮し、医療・介護の予備資金と必要な保険で守りを固め、インフレに負けない資産運用で資産寿命を伸ばすことが大切です。
早めに「わが家の不足額」を数字で把握し、夫婦の価値観に合った備え方を選んでいけば、年金300万円でも安心に近づくことは十分に可能です。
監修者からひとこと

スマホdeほけん編集部監修者
ファイナンシャルプランナー
年金300万円という数字だけを見ると「そこそこ余裕がありそう」と感じるかもしれませんが、老後家計で大事なのは額面ではなく「手取り」と「支出」とのバランスです。
医療・介護・物価・家族構成の変化を踏まえると、年金だけに依存しない準備が必要だとわかります。
老後は、「支出の最適化(節約)」「リスクへの備え(保障)」「お金の寿命を延ばす工夫(運用)」の3つをバランスよく整えることが安定のカギになります。
まずは現在の家計と将来の年金見込みを整理し、必要な不足額を見える化するところから始めてみてください。迷う場合は、FPと一緒にキャッシュフロー表を作り、数字を確認しながら自分たちに合った備え方を選ぶと、納得感のある老後設計につながります。