年金の繰り上げ受給と厚生年金の関係を完全整理|働きながら受け取る損得と注意点

スマホdeほけん編集部監修者

ファイナンシャルプランナー

保有資格

AFP・2級FP技能士

専門分野・得意分野

生命保険・社会保障・金融全般に精通。保険業界での実務経験をもとに、ユーザー目線で正確かつ中立的な情報発信を行っています。

老後資金の見通しが立たず、「年金を早めてもらってキャッシュフローを安定させたい」と考える方は少なくありません。

ただし繰り上げ受給は、受給開始時期を前倒しできる一方で、老齢基礎年金・老齢厚生年金の双方が恒久的に減額される制度です。

さらに就労を続ける場合は、在職老齢年金による支給停止や雇用保険(高年齢雇用継続給付・基本手当)との調整が加わり、設計を誤ると実際の手取りが想定より大きく目減りすることもあります。

本記事では、2025年度の基準に基づき、繰り上げ受給と厚生年金の実務上の関係、メリット・デメリット、損を避ける判断軸を専門家の視点から整理して解説します。

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年金の繰り上げ受給とは?減額ルールの基礎整理

繰り上げ受給とは、原則65歳からの老齢年金を、60〜64歳の任意の月から前倒しで受給する仕組みです。

繰り上げた月数に応じて給付が減額され、昭和37年4月2日以降生まれの方は1カ月あたり0.4%、最大5年で24%の減額が生涯にわたり続きます。

この減額は老齢基礎年金だけでなく老齢厚生年金にも同率で適用される点が重要です。

一度繰り上げを請求すると撤回はできないため、「短期的な生活資金」と「長期の総受給額」を事前に比較・検証しておく必要があります。

繰り上げ受給と厚生年金の関係|ダブル減額の構造

原則として、繰り上げを請求する際は老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に繰り上げる必要があります。

そのため、繰り上げ月数が同じであれば、基礎・厚生ともに同じ率だけ減額される「ダブル減額」となります。

まずは押さえておくべき論点を整理しましょう。

以下のポイントを順に確認すると、繰り上げ後のイメージが具体化しやすくなります。

1. 減額率は生涯固定

繰り上げによる減額は、65歳以降も自動的に解消されることはありません。

「早く受け取る代わりに、以後の年金水準を恒久的に引き下げる」選択であり、老後のキャッシュフロー全体に直結します。

2. 基礎・厚生とも同率で減額

対象となるのは老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方です。

報酬比例部分を含む老齢厚生年金の比重が大きい方ほど、減額額(円ベース)のインパクトは相対的に大きくなります。

3. 損益分岐点はおおむね80歳前後

繰り上げの損得は、「前倒しで受け取る総額」と「減額され続ける総額」の比較で評価します。

一般的なモデルケースでは、総受給額の損益分岐は80歳前後に位置するとされ、それ以降長生きするほど繰り上げは不利になりやすい傾向があります。

4. 請求後の取り消しは不可

一度繰り上げを請求すると、原則として65歳開始に戻すことはできません。

一時的な資金不足だけを理由に判断するのではなく、ライフプラン全体を踏まえた意思決定が求められます。

5. 加給年金・振替加算への影響

繰り上げを行うと、加給年金が支給されない、あるいは支給開始が遅れるなど、関連給付に影響が及ぶことがあります。

配偶者との年齢差がある場合や、加給年金・振替加算の権利が見込まれる家庭は、ここを事前に精査する必要があります。

注意ポイント

繰り上げは、「老後前半の資金余力」を高める代わりに、「老後後半の手取り水準」を固定的に下げる制度です。短期と長期のメリット・デメリットを必ず並行して評価しましょう。

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就労しながら受給する場合の最大論点|在職老齢年金

繰り上げ後も厚生年金に加入して働く場合、老齢厚生年金には在職老齢年金の支給調整ルールが適用されます。

2025年度の支給停止基準額は月51万円で、「総報酬月額相当額(給与+賞与の月割)+老齢厚生年金の基本月額」の合計が基準を超えると、超過分の2分の1が支給停止されます。

なお、基準額は2026年4月から62万円へ引き上げ予定であり、将来的には支給停止の対象となる層がやや縮小する見込みです。

老齢基礎年金は在職老齢年金の調整対象外のため、就労中も原則として全額支給されます。

雇用保険給付との関係|高年齢雇用継続給付・失業給付

60代前半で賃金が下がった場合に受給できる高年齢雇用継続給付は、老齢厚生年金との間で調整が入ります。

具体的には、高年齢雇用継続給付のうち40%相当額が老齢厚生年金から支給停止される仕組みです。

また、失業した場合の基本手当(いわゆる「失業給付」)の受給期間中は、一定の条件のもと老齢年金の支給が全額または一部停止となる場合があります。

60代以降に働き方や雇用形態を変える予定がある方ほど、雇用保険給付と年金受給のタイミング設計が重要になります。

繰り上げ受給のメリット|60代前半のキャッシュフローを補強

繰り上げ受給の主なメリットは、60〜64歳期に安定的な年金収入を確保できる点です。

定年後に給与収入が減少する局面で、貯蓄の取り崩しペースを抑えつつ、生活水準の急激な低下を避けやすくなります。

また、在職中に厚生年金に加入し続ければ、在職定時改定により納付実績が翌年度以降の年金額に反映されます。

「給与+年金」の複線的な収入構造を作りたい方にとっては、有効な選択肢になり得ます。

繰り上げ受給のデメリット|長期的な総受給額と保障の縮小

一方のデメリットは、減額が生涯続くことによる総受給額の目減りと、社会保障上の権利が一部制約される点です。

長寿化が進む中で、80歳以降まで生存するケースが一般的になるほど、繰り上げによる総額のマイナスは大きくなります。

さらに、繰り上げ後は原則として新たな障害基礎年金の請求ができず、65歳前における遺族年金との併給も制限されるなど、生活保障としての厚みが一部削がれます。

健康リスクや家族構成を踏まえ、「目先のキャッシュフロー」と「長期の生活保障」のどちらに重きを置くのか、優先順位を明確にしておく必要があります。

繰り上げに向く人・向かない人|家計・健康・就労見通しから判断

繰り上げの適性は、年齢そのものよりも「家計の余裕度」「健康状態」「働き方の見通し」で大きく変わります。

下表で代表的なパターンを整理しますので、該当する欄が多いかどうか確認してみてください。

特徴 繰り上げのメリット 主なリスク・留意点
健康に不安があり、受給期間が短いと想定 早期に公的年金を取り崩せるため、心理的・実務的な安心感が大きい 想定より長生きした場合、総受給額が大きく不利になる可能性
貯蓄が薄く、60代前半の生活費が不足 家計の赤字を補填でき、預貯金の減りを抑制しやすい 社会保険料・税負担を含めたキャッシュフロー管理が重要
60代以降も安定的に就労継続が可能 給与+年金の二本立てで老後資金を積み増しやすい 在職老齢年金により厚生年金が支給停止となる可能性
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FPに聞く!繰り上げ受給のリアルな疑問と判断のツボ

繰り上げ受給は不可逆な選択であるため、制度知識だけでなく「実際の手取り」がどう変わるかの視点が欠かせません。

ここでは、典型的な疑問にFPが答える形で判断軸を整理します。

34歳・女性

繰り上げ受給は何歳から、どのような条件でできますか?

スマホdeほけん

原則60〜64歳の間で、1カ月単位で開始時期を選べます。昭和37年4月2日以降生まれの方は、1カ月繰り上げるごとに0.4%減、60歳から受給すると24%減が生涯続きます。

34歳・女性

働きながら受け取ると、必ず年金が減額されてしまいますか?

スマホdeほけん

必ずではありません。老齢厚生年金は在職老齢年金の調整対象ですが、「給与+年金」の合計が2025年度基準額の51万円を超えた部分の2分の1のみが支給停止です。基礎年金は停止対象外です。

34歳・女性

繰り上げの減額は、65歳以降に元に戻ることはありますか?

スマホdeほけん

戻りません。繰り上げ後の減額率は生涯固定であり、請求を取り消すこともできません。そのため、ライフプラン全体のシミュレーションが前提になります。

34歳・女性

老後資金が不安な場合、繰り上げ以外にどんな選択肢がありますか?

スマホdeほけん

繰り下げ受給で年金額を増やす選択肢や、新NISA・変額保険などを活用して60代前半までの生活費を民間資産でつなぐ方法もあります。年金に過度に依存しない設計も検討に値します。

34歳・女性

最終的に繰り上げ判断で一番重視すべきポイントは何でしょうか?

スマホdeほけん

「直近5〜10年の生活費」と「生涯の総受給額」を同じ尺度で比較することです。健康状態・就労可能性・家族の保障ニーズを含めてトータルで見ることが重要です。

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年金の繰り上げ受給に関するよくある質問

最後に、繰り上げ受給と厚生年金に関して多い質問をQ&A形式で整理します。

検討の前に、ここで認識の抜け漏れがないか確認しておきましょう。

Q1. 繰り上げ受給の減額率は具体的にどのくらいですか?

A. 昭和37年4月2日以降生まれの方は、1カ月あたり0.4%減です。60歳から受給すると5年=60カ月繰り上げとなり、24%減額が老齢基礎年金・老齢厚生年金の双方に生涯適用されます。

Q2. 繰り上げを一度選んだあと、途中でやめることはできますか?

A. できません。繰り上げ請求後に65歳開始へ戻す制度はなく、減額も自動的には解消されません。請求前に十分な検討が必要です。

Q3. 在職老齢年金の支給停止対象となるのは、年金のどの部分ですか?

A. 支給停止の対象となるのは、老齢厚生年金の報酬比例部分です。老齢基礎年金は在職老齢年金の調整対象外で、原則として全額支給されます。

Q4. 繰り上げは障害年金や遺族年金にどのような影響がありますか?

A. 原則として、繰り上げ後に新たに障害基礎年金を請求することはできません。また、65歳前の遺族年金との併給関係にも制約が生じる場合があります。既存・将来の給付権を事前に確認しておく必要があります。

Q5. 実際の受給タイミングは、どのように決めるのが現実的ですか?

A. 家計の不足額、就労見通し、健康状態、家族への保障ニーズを一覧化し、複数のシナリオ(60歳・62歳・65歳など)でキャッシュフローを比較するのが実務的です。迷う場合は、FPに数値シミュレーションを依頼すると判断精度が高まります。

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まとめ:繰り上げ受給は「今の安心」と「将来の手取り」を同じ土俵で比較して決める

年金の繰り上げ受給は、60代前半から公的年金を取り入れ、家計のキャッシュフローを早期に安定させる有効な手段です。

一方で、老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに最大24%の減額が生涯続き、長寿化が進むなかでは総受給額や生活保障面で不利になりやすい側面もあります。就労を継続する場合は在職老齢年金や雇用保険との調整も加わり、設計の難易度は上がります。

最終的な結論は、現在〜10年程度の生活安定と、生涯の総受給額・保障水準のどこに重心を置くかで決まります。老後資金の不足額、健康・就労の見通し、民間の資産形成(変額保険を含む)まで含めて全体設計を行い、自分と家族が納得できる受給タイミングを選びましょう。

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監修者からひとこと

スマホdeほけん編集部監修者

ファイナンシャルプランナー

繰り上げ受給は、「年金の開始年齢」という一点の問題ではなく、在職老齢年金・雇用保険・障害年金・遺族年金といった制度全体に波及する選択です。そのため、制度の断片的な説明だけで判断するのは危険と言えます。

特に60代前半は、働き方の転換・親の介護・自分の健康状態の変化など、ライフイベントが重なりやすい時期です。短期の資金需要に引きずられず、長期のキャッシュフローとリスクを可視化したうえで意思決定することが、老後の安心につながります。必要に応じてFPなど専門家とともに複数のシナリオを比較し、「数字ベースで納得できる結論」を導くことをおすすめします。